10%の性能アップは難しい、でも10倍の性能アップは簡単だったりする

お久しぶりです。ノリノリでブログタイトルを変えた翌日から腸炎を発症し、39℃飲まず食わずで寝込んでいました、@medakamasterです。

photo by Łukasz Strachanowski

最近買った製品の開発秘話を見て、タイトルの言葉を思い出したので今日はその内容でblogを書いてみます。

10%の性能アップは難しい、でも10倍の性能アップは簡単

この言葉は、すぐに視野が狭まりがちな"専門家"に対する戒めだ。固定観念に対する疑いを持ち、困難にチャレンジし続ける姿勢を要求する言葉だ。

求める性能向上が10%だと、現行の技術の延長線上の改良で実現できそうだと開発者が感じてしまう。すると彼らは成熟した現行技術に固執してしまい、10%の達成すら困難になることが多い。一方で10倍の改良が必要になると技術者は直感的に、現行技術では達成できないと悟る。すると彼らは全く別の道を探すようになる。その結果、10倍の性能向上に繋がるアイディアを見つけ出せることがあるという意味だ。

象印が出した(・・・わりと前に出していた)ふとん乾燥機が、まさにそれを体現していると感じたので紹介したい。

象印の革命的ふとん乾燥機

象印は2012年、一度は撤退したふとん乾燥機に再参入した。そのとき彼らは、従来のどのふとん乾燥機にもある、温風を閉じ込める乾燥マットを取り除くことで、他社製品で1分かかっていたふとん乾燥時の片付けを、なんと数秒でできるようにした。 こんなふうに。


象印ふとん乾燥機 スマートドライ - YouTube

このアイディアはどのように生まれたのか、気になって検索してみたら、象印が開発秘話を公開していた。

開発秘話/Vol.15 ふとん乾燥機「スマートドライ」の巻|会社概要|象印

本当にこれだけ?

象印でも再参入にあたって、まずは折りたたみやすいマットを検討したようだ。 しかしボスからはこんなコメントが。

「折りたたみの改善はこの方式にします」と報告したところ、事業部長の厳しい発言がとんだ。

「本当にこれだけ?」

このままでは後発メーカーとして、あまりにインパクトがなさすぎる。「“ワン・ツー・スリーで収納”というくらい収納時間を短くできないのか」というのが事業部長の意見だった。 「マットをたたむ行為だけでどうしても10秒超えてしまうので、どう考えても“数秒”は実現できないのです。そこでいろいろ悩んだ結果、マット無しでやってみようと思いました」と、岩本は振り返る。

彼らは事業部長から、マットがあっては絶対に実現できないレベルの要求をされた。それにより、マット無しで何とか行く、という道に飛び込むことができたという。

私はタイトルで"10倍は簡単"と言ったが、もちろん全く新しい技術の実現までの道のりは容易ではない。実際に上記秘話でもいくつもの新規技術課題が見つかり、彼らはそれをなんとか乗り越えている。ただし各社しのぎを削っている現行の成熟技術における性能向上も技術的には相当困難であり、向上性能あたりの開発コストはマット無しの新規技術の方が大幅に小さいはずだ。 しかも、一端技術開発に成功すれば、新しく生まれる技術課題の解決法は全て自社だけの特許になるし、新技術で大幅に性能を向上させれば消費者に与えるイメージも非常に良いものになる。Amazonのレビューも絶賛の嵐だし、何より他社商品より高値で販売されている事実がそれを表している。

ZOJIRUSHI ふとん乾燥機 【マット&ホース不要】 ブルー RF-AA20-AA

ZOJIRUSHI ふとん乾燥機 【マット&ホース不要】 ブルー RF-AA20-AA

10倍の性能アップ、この言葉を忘れずに、挑戦を恐れずに日々の仕事に取り組みたい。

という、バラ色なお話でした。ちょっとプロジェクトX臭というか、ブラック上司的な雰囲気も漂う話ですが、たぶん人に押しつけられず自分で思う分には役立つこともある考え方かと思い、書いてみました。

・・・ただ、視野を広く持とうとするだけでは新しいものは生まれません。 その程度で思いつくアイディアなら、絶対に他の誰かが思いついて製品化をしています。いいアイディアを自分だけが思いついた、なんてことはまずありません。

どこかでそれに関連した記事を書ければと思います。