特許は技術進歩を阻害する? 特許に対する2つの誤解を解く(その2/2)

特許に関する2つめの誤解

前回の記事 ”特許バトルの基本戦略 特許に対する2つの誤解を解く(その1/2) - Make Innovation!!”では、以下の2つのよくある誤解のうち、1について説明した。


特許に対する2つのよくある誤解

1.特許はアイディアを出すだけの人を守るから、アイディアの具現化をがんばる人達の邪魔になる?(前回
2.特許を取ればその会社は儲かるけど、社会全体では技術進歩が遅れる?

今回はこの2つめの誤解について説明する。

特許を取ればその会社は儲かるけど、社会全体では技術進歩が遅れる?

これはいったい、どこが誤解と言えるのか。
特許権の基本から考えてみる。

ある企業が何らかの技術について特許権を得ると、他の企業は最大20年間に渡りその技術を使用できない。
確かにこれは社会全体の技術進歩を遅らせる可能性がある。
20年もの独占権を1企業に与えてしまうと、長期にわたって新規参入が抑制されたり、競合他社との健全な技術競争が生まれなくなる恐れがあるためだ。

しかし、特許にはその弊害を打ち消して余りあるだけの1つの重要なルールが備わっている。

そのルールとは何か。

特許の代償、技術情報の公開

そのルールは、「技術情報の公開」だ。

特許を取るために発明者は特許に関わる技術情報を詳細に公開しなくてはいけないのだ。
特許法第三十四条四項に以下の記述がある。

4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

すなわち特許を取るためには、同業他社が発明内容を実施できるように技術情報を開示しなくてはならない。この点はわりと厳格に運用されており、実際に開示不十分で特許が認められなかったり、他社の指摘により特許が無効化されるケースも多い。

従って特許制度とは、20年の特許権を与える代わりに、各企業が心血を注ぐ技術開発の大量の成果を人類共通の財産として共有化するものとも言える。

技術情報の公開が市場競争を促進

特許明細に書かれた技術情報は出願からきっかり1年半後に公開され、ライバル企業はこれを継続的にチェックする。

これによりライバルの技術開発の動向を探ったり、ライバルのアイディアを足がかりに新しいアイディアを生み出したり、場合によっては先回りして特許の束(前回記事参照)を形成したりする。

結果として、特許制度のお陰で企業間の技術競争は激化し、社会全体の利益にも繋がると言えるだろう。

※公開までの1年半は、出願企業のために公開を猶予する期間。さすがに出願直後に公開だと鬼畜過ぎて誰も特許を出さなくなると考えているのだと思う。

もし特許制度がなかったら?

特許制度がなければ、どうなるか、もちろん全ての企業が技術を隠すだろう。

例えば、化学などいくつかの分野においては、現在の特許法に馴染まないという理由から、製造方法を始めとする多くの技術を特許出願をせず、機密情報として徹底的に隠す道を選んでいる。

競合他社への情報漏洩に敏感になり、情報管理の厳格化に伴い建物内へのカメラ持ち込みも禁止されるこのご時世に、企業自らが重要な技術情報を次々に公開する。それを実現しているのが特許制度だ。


従って、

特許は各企業の技術開発の成果を人類共通の財産として公開、共有化するものであり、それは技術進歩を促進する!

ということができるだろう。




P.S.これは特許の一面であり、現実を知っている人からはいろいろ突っ込みたい人もいると思います。その点はコメント欄等で書いて頂ければ嬉しいです。